人類に告ぐ

いけない事とは分かっていてもやめられない事がある。

 

例えばタコ足配線。テーブルタップの説明書通りに思慮を以て行うならまだしも、ここに広がるはタコ足に次ぐタコ足、無限に続くフラクタル。タコ足配線をすると発火、感電の恐れがある上に自由奔放に跳梁跋扈するコードは足に絡みつき、われら人間の足元を脅かす。

 

この過ちによって私は命を落とすだろう。最期にこの手記を残す。

後の人類が同じ過ちを繰り返さないように……。

 

今、人間は無数の電子機器に囲まれて生活を営む。

そこで頭を悩ませる問題が、コンセントの位置、そして数だ。しかし万物の霊長たる人間はタコ足配線を発明し、いとも簡単に便利な生活を手に入れた。

それが破滅への前奏曲とも知らぬままに。

 

私も無知のままタコ足配線を無計画に行う人間の一人であった。様々な機器の充電、冷蔵庫に洗濯機、電子レンジ、テレビ、数えきれない電化製品がワンルームには存在する。それに付随するプラグは数少ないコンセントへ収束していく。

たまにブレーカーが落ちることもあったが、気にしてはいなかった。

 

 タコ足配線の恐ろしさに気づいたのは、異変が始まってひと月ほどたった頃だった。

始まりは、コードが足にいつもより絡みついてくるような気がしたのみ。その日からタコ足配線は勢力を伸ばし、静かにしかし着実に人間の世界を破滅に導いていった。

 

タコ足配線。タコの足のような姿から名づけられたこの悪行は、その名にふさわしい成長を遂げた。

自我を持ち、タコとしての能力に目覚めたのだ。

タコは高い知能を持つといわれている。高い問題解決能力を誇り、鋭い知覚を持つ。全身に張り巡らされた神経細胞は彼らの思考を淀みなく進ませる。

 

ある科学者は、タコの寿命が長ければ地球を支配する生物は彼らであっただろう、と述べた。

 

タコ足配線には寿命がない。タコという生物に課せられた制限を取り払ったタコ足配線たちは、今や人間にとって代わる存在だ。

 

足に絡みつき自由を奪うのは序の口。次第に彼らは巧妙な罠を張り巡らせ私の命を狙うようになった。風呂に入ろうとすれば浴槽には充電器の端子が沈み、コンセントの周りに埃がうずたかく積みあがる。

最も恐ろしいのは、タコ足配線たちの学習能力だ。

 

じわじわと、それでいて確実に彼らは腕を上げてきた。

彼らの猛攻をしのいではきたが、止まらぬ成長の前には太刀打ちができない。このあたりが潮時だろう。

外に出ることはドアノブに流れる電流で叶わず、テレビも過電流によって故障したこの状況。もはや彼らにとって私の命を奪うことは赤子の手をひねるよりもたやすいはずだ。しかし未だ訪れない終わりはこのパソコンとともに残されている。

せめて、人類に対して警告をしてから、死のう。

犬死はごめんだ。

 

もしもこれを読んでいる者がいれば、今すぐタコ足配線をやめてくれ。異変を感じたらすぐにブレーカーを落とすんだ。頼む。

 

 

 

 

助けてくr

 

 

 

 

 

 

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