よくある話

私はベッドの下に潜り込んだ。

 

息を殺して横たわる。埃っぽい饐えた空気が乾いた肺を蝕む。
じわりじわりと毛穴からにじむ汗が、青黒く冷えて固まった両手と手斧の境界をひどくあいまいにしていく。
自分の鼓動が、呼吸が、思考がどうしようもなくうるさい。うるさくて仕方がない。見つかってしまうではないか。早く、早く静かに、静かに。
ベッドの裏面に遮られた四角の世界が歪む。静かに。静かにしなければ。

冷静であれ、正確であれ、静かに、息を殺すのだ。恐怖は無視しろ。
手斧の柄の硬さにすがるように汗で滑る両手を握りしめる。鉄のいやな臭いが鼻につく。

失敗は許されない。
これが私の最初の仕事だからだ。

ベッドの下の怪物が、こんな有様でどうする。私は己を鼓舞する。
私が恐怖なのだ。私が不安の王だ。私は、私は。捕食者なのだから、恐れるものなんて、無い。
私が私であるように、私の暴力をあるがままにふるえばいい。


時間の感覚が溶けて、深まる夜の色と混ざり合い渦を巻く。
気分が悪い。

ミシリ。

煤けた木の床がきしむ音。
出番が来た。
心臓の鼓動も、浮いては沈む雑念も、手斧の硬さも、一つに収束され鋭くなる。

ベッドの主が寝入る瞬間を見極めればいい。それができれば、すべて終わりだ。
息を殺す。

一歩、二歩、三歩……。床のきしむ音。
私の全身全霊は聴覚になった。

足音が止まる。

 

「みいつけた」